総務省が開催している「主権者教育の取組状況等 - 主権者教育のための学習教材」のなかで町内会が「寄附金を強制的に徴収する事は思想・信条の自由(憲法19条)を侵害する」という判例と解説が掲載されていますので紹介します
教材7「法教育の視点から ルールづくり」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000280002.pdf
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https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/gakusyu/index.html
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事例・法令部分をテキストにて再掲します----------------------------------------------------------------
2 事例
本教材では、自治会で実際に発生した紛争(トラブル)を事例として取り上げる。
具体的には、下記の憲法問題をその内容としている。
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事例
「ある自治会の定期総会で、『赤い羽根共同募金』を会費の一部として徴収するために、
自治会費増額(年2,000 円)を決議した。すると、自治会員の一部の人たちが「思想及
び良心の自由」(憲法19条)等を侵害しているので、徴収を止めて欲しいと主張した」
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滋賀県甲賀市甲南町の「希望ケ丘自治会」は、従来、赤い羽根共同募金
や日本赤十字社への寄付金などを、各世帯を訪問して任意で集めてきた。この
ように、この寄付金はグループ長・組長らが訪問して集めていたが、約940世
帯ある上に高齢者も多く、各家を1軒ずつ回って徴収するのは負担が大きいこと、
しかも協力を得られなかったり留守だったりするなどでより負担が重くなったた
め、グループ長になるのを避けようと休会する人もいた。そこで、集金にあたる
グループ長・組長らの負担を解消しようと 2006 年 3 月の定期総会で、年会費
6,000 円の自治会費に募金や寄付金など 2,000 円分を上乗せ(増額)して徴収す
ることを定期総会で賛成多数で決議した。
2006 年3月総会議決
6,000 円+2,000 円=8,000 円(上乗せ議決)(強行徴収)
その決議では、増額分の会費は、全額、地元の小中学校の教育後援会、赤い羽根
共同募金会、緑化推進委員会、社会福祉協議会、日本赤十字社及び滋賀県共同募?
会への募金や寄付金に充てる、としていた。
これに対して、原告らは「寄付するかどうかは個人の自由」と一律徴収に反対し、
翌月に「本件決議は思想・良心の自由等の侵害を理由として決議の無効確認等を求
めて訴訟を起こした。
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----------------------------------------------------------------第1審判決(大津地方裁判所 平成 18 年 11 月 27日 判例集未掲載)
本件募金対象団体が政治的思想や宗教に関わるものではなく、寄付の
名義は原告らではなく「希望ケ丘自治会」であることからも構成員の思想
信条に与える影響は直接かつ具体的なものではなく、また負担金額も過大では
ない、として本件決議が公序良俗に反しないとしていた。
第2審判決(大阪高等裁判所 平成 19 年 8 月 24日 判決)
募金及び寄附金は、その性格上、「すべて任意に行われるべきものであり」グル
ープ長や組長集金の負担の解消を理由に、これを会費化して一律に協力を求めよう
とすること自体、「希望ケ丘自治会」の性格からして、「様々な価値観を有する会員
が存在することが予想されるのに、これを無視するものである上、募金及び寄附金
の趣旨にも反する」としました。そして、募金及び寄附金に応じるかどうかは、「各
人の属性、社会的・経済的状況等を踏まえた思想、信条に大きく左右されるもので
あり」、会員の任意の態度、決定を十分に尊重すべきだとし、「その支払を事実上強
制するような場合には、思想、信条の自由の侵害の問題が生じ得る」とした。なお、
本自治会の場合、会費を納付しなければ脱会を余儀なくされる恐れがあったが、自
治会未加?者はごみステーションを利用できないなどの不利益を受け、脱退の自由
を事実上制限されていた。したがって、本件募?の徴収は、「会員の生活上不可欠
な存在」である「希望ケ丘自治会」により、事実上強制されるものであり、「社会
的に許容される限度を超える」と判示して、1審判決を取り消していた(『判例セ
レクト 2007』有斐閣)。
最高裁判決(最高裁判所第1小法廷 平成 20 年 4 月 3日判決)
自治会側の上告を棄却する決定をしました。これで「徴収は思想・信条の自由
(憲法 19 条)を侵害する」として決議を無効と認め、反対住民側の逆転勝訴の二審
大阪高裁判決が確定しました。
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<資料 11> 「補足説明」
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憲法 19 条
「思想良心の自由は絶対に侵してはならない」と規定しており、思想と良心と
は、内心におけるものの見方ないし考え方(世界観・人生観・主義・信条など)を指
している。判例では、思想の自由は人が内心に抱く考え方の自由が外部の強制・圧
迫・差別待遇により妨げられないこと、人の精神活動の自由が外部の力から保証さ
れている状態を指す(星野安三郎他監修『口語六法全書憲法』自由国民社、1998 年)。
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自治会(町内会)
自治会(町内会)には様々な形態があるが、共通して5つの条件を持つ組織とされる。
①一定の地域区画を持ち、その区画が相互に重なり合わない、
②世帯を単位として構成される、
③原則として全世帯加入の考え方にたつ、
④地域の諸課題に関与する、
⑤それらの結果として行政や外部の第三者に対して、地域を代表する組織になる
のである。いずれにしても④に対処するために、一定の地域区画の中の世帯が協働
して活動を行う組織と位置づけることが出来るだろう(中田実『地域分権時代の町
内会・自治会』自治体研究社、2007 年)。
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